イチロー選手が現役を引退しました。少年野球や草野球などで、イチロー選手の振り子打法や背面キャッチを真似したという人もいるでしょう。世代のスーパースターで、引退後もその圧倒的な存在感とカリスマ性は衰えることがありません。
上の写真に新聞紙面をご覧いただけたら分かるように、新聞の見出しではよく選手名を短縮します。「イチ」に限らず「ダル(ダルビッシュ)」や「バレ(バレンティン)」「メッセ(メッセンジャー)」など頻出します。なぜ見出しでは、短くする必要があるんでしょうか。わたしは約11年間新聞社に勤め、紙面レイアウトを担当する「整理記者」を担当したこともあるので、当時の経験を思い出しながら見出しの秘密を解説したいと思います。
「8・10」と「9・11」
見出しに使う選手名を短縮する、その理由は「見出しに使える字数には限りがあるから」です。上写真の見出しでは長くて太い方の「イチ、開幕戦で復帰」の方を“主見出し”といい、短く、細字の「1四球、途中交代」の方は“そで見出し”などと呼びます。
見出し作りには決まりごとがあり、主見出しの文字数は8本か9本(8文字か9文字)、そで見出しは10本か11本、と言う原則があります。
上の相撲の記事では、「貴景勝」という関取の名前が一文字削られて「貴景」となっています。たった一文字ぐらいと思うかもしれませんが、「勝」を入れるためには他の文字を少しずつ小さくしなければならず、目立たなくなってしまいます。それに加えて「貴景」だけでも「貴景勝」だと分かるので、ここでは大相撲を伝える記事が大きい見出しでなるべく目立つよう、一文字削って入れています。
ただし、「貴景山」や「貴景海」といった力士が十両以上でほかにいる場合は、こういった使い方はできなくなります。そういったときにはしっかり四股名を全部入れるか「貴勝」「貴山」「貴海」といったような使い方をするなど、紙面レイアウトを担当する整理記者は試行錯誤を重ねることになります。
一つの見出しに情報を詰め込む
そのため、見出しを考える整理記者は、この決まりごとを守りながら、一つの見出しに多くの情報を詰め込もうと悪戦苦闘し、「短くできるものは徹底的に削る」というマインドを常に持っています。
*この見出しでは、「8本10本」の決まりごとに沿っています。
たとえばですが、「ダルビッシュ投手が完投13奪三振で勝利投手になった」という記事があったとします。これでまず「ダルビッシュ」という主語を用いて、先ほどの決まりごとにそって仮の主見出しをつくるとすると…
「ダルビッシュ白星」(8本)…しか収容できません。
ここで「ダル」を試しに使います。すると…
「ダル13K完投白星」(8本)(13は半角で1文字扱い)
と、収まりました!
このように、1文字を削り出す努力を見出し考え人たちは日々繰り返しています。今度、新聞に目を通されたとき、ぜひ見出しの本数(文字数)に注目してみてくださいね。
コメント